豊前国小倉沖の舟島。真昼の太陽が照り付けるなか、宮本武蔵と佐々木小次郎が、たがいにきびしく睨み合っている。
小次郎は愛刀「物干し竿」を抜き放ち、武蔵は背に隠した木刀を深く構える。
武蔵が不意に声をあげる。
「この勝負、おぬしの負けと決まった」。
約束の刻限から半日近くも待たされた小次郎の苛立ちは、すでに頂点に達していた。
小次郎が動き、勝負は一撃で決まった。
勝ったのは武蔵。
検死役の藩医に「お手当を!」と叫び、疾風のごとく舟島を立ち去る武蔵。
佐々木小次郎の「巌流」をとって、後に「巌流島の決闘」と呼ばれることになる世紀の大一番は、こうして一瞬のうちに終わり、そして……物語はここから始まる。
舟島の決闘から6年後の、元和4年(1618)夏。
鎌倉は佐助ヶ谷、源氏山宝蓮寺。
名もなき小さなこの寺で、いままさに寺開きの参籠禅がとり行われようとしていた。
大徳寺の長老沢庵宗彭(辻萬長)を導師に迎え、能狂いの柳生宗矩(吉田鋼太郎)、寺の大檀那である木屋まい(白石加代子)と筆屋乙女(鈴木杏)、そして寺の作事を務めたあの宮本武蔵(藤原竜也)も参加している。
ところがそこへ、小次郎(小栗旬)があらわれた。
舟島でかろうじて一命をとりとめた小次郎は、武蔵憎しの一念で武蔵のゆくへを追いかけて、ここ宝蓮寺でついに宿敵をとらえたのだ。
今度こそは「五分と五分」で決着をつけようと、小次郎は武蔵に「果し合い状」をつきつける。
こうして、世に並ぶ者なき二大剣客、宮本武蔵と佐々木小次郎の、命をかけた再対決が、「三日後の朝」と約束されるのだが……。
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